ちょっと時間がたってしまいましたが、5月3日は憲法記念日。
国会では憲法改正論議が盛んにされています。しかし国民の間で今憲法を変えたいという議論がどれだけされているのでしょうか。
大いに疑問です。
一部政治家が躍起になって憲法を改正したい理由は自衛隊の明記や緊急事態条項を加えたいから。
しかし、それが今日本にとって緊急に必要なのでしょうか。
急激な物価の上昇は止まらず、昨日は大手電力会社の電気代の大幅値上げを政府は認めてしまいました。
その大幅な値上げ率には恐怖さえ感じます。
統一地方選挙や、衆参の補欠選挙が終わったとたんの値上げの認可。
国民は全くなめられています。こんな値上げが発表されたら外国では暴動が起こっても不思議ではありません。
しかし日本人は、黙って耐え忍ぶのでしょう。情けないですね。
いま政治がしなければならないのか、国民の命と暮らしを守ることだと思います。
憲法どころではないはずです。
2023/5/14 毎日新聞
毎日新聞日曜版連載 松尾貴史のちょっと違和感
憲法改正 一部政治家が躍起になる理由は
憲法が改正どころか改変、いやどう考えても改悪されようとしている昨今、何をどう変えるかも示さずに「改憲に賛成か、反対か」という無意味な質問で得た数字ばかりが躍っている中、改憲を容認する人が増えているようなムードが醸されていることに危機感を覚える話を申し上げた。ことに緊急事態条項などを創設してしまえば、当時は平和的、進歩的な憲法だと言われていたワイマール憲法の「全権委任法」をナチスドイツが利用したのと同
その中で、神奈川・鎌倉で最近開催した井上ひさし作品の朗読会のために持ち歩いていた「子どもにつたえる日本国憲法」(講談社)という名著の一部を朗読させていただいた。「憲法の精神が時代に合わず古くなっている」というのは間違いで、逆に憲法の平和主義が世界を先取りしていることを誇りに思うべきではないか、と教えてくれている。いわさきちひろさんの絵と共に素晴らしい世界観を作り上げている本で、大人の私たちも読み返すと目から鱗(うろこ)が落ちるような言葉がつづられているので、人の寄り集まる場所全てに置いてほしい思いすら湧く本だ。憲法記念日でなくとも、憲法は私たちの生活、命、この国の骨組みとして「ずっとあるもの」なのだから、常に大切なものとして意識していたいものである。
「憲法をわかりやすく」といえば、もう一つ名著がある。弁護士の楾大樹(はんどうたいき)さんが書いた「檻(おり)の中のライオン」(かもがわ出版)で、イラストレーションなどと共に、法律家が共有する憲法の基本的な理解を「ライオン=国家権力」「檻=憲法」という比喩によってわかりやすく伝えてくれている。
例えば「檻を作るのは私たち」の項では、君主が国民に権利という恩恵を与えてやっているという「欽定(きんてい)憲法」と、国民が君主に命ずる形の「民定憲法」があり、この国の日本国憲法は後者だと解説している。
「檻にライオンを3頭入れる」という項目も面白い。権力が一つに集中してしまうと暴走に歯止めがなくなるので、行政権(内閣)、立法権(国会)、司法権(裁判所)を、檻の中で監視させ合うという概念だ。「ライオンは檻を大切にしないとダメ」という項目は、国会議員や公務員が、日本国憲法を尊重し、順守しなければならないということを語っている。憲法を改変したくて仕方がなかった、近年まで首相だった人物は、生前「みっともない憲法ですよ」などとこき下ろしていたけれども、その時点で国会議員である資格もなかったということにならないだろうか。
そもそも、国民の間で「こんな憲法のせいで不自由だ」という不満が出て「憲法を変えるべきだ」という社会運動が起きるのならともかく、政治家の一部が躍起になって変えたがっている理由を察するに、その方が権力を好き勝手に行使して金もうけができるからという以外に、説得力のある説明をしてくれる人がいたらお願いしたいものだ。
そのような政治家たちの中には「主権在民はおかしい」とか「基本的人権など削除しろ」とまで言う人たちがいる。そういう者たちに、私たちを守ってくれている憲法をいじらせていいはずがないではないか。
憲法によって縛られるべき国会議員が「憲法を変えよう」と言うのは、犯罪を犯す可能性が高い者が「刑を軽くしろ」と騒いでいるのと大きな違いはない。(放送タレント、イラストも)=5月9日執筆じく、時の権力者が恣意(しい)的に憲法の効力を停止して、永久に独裁を続けることになる恐怖についても話した。