一審(広島地裁)は原告が敗訴、第二審(広島高裁)は原告の勝訴を受け、市長は最高裁に上告しました。最高裁は、高裁の決定を破棄、原告の敗訴が決定しました。
この裁判は、地方自治法法 96条1項8号(大竹市条例)にもとづきの議案が提出されたことが、地方自治法法 237条2項の議会の議決といえるかが争点になりました。
96条も237条も条文を読むと同じような表現ですが、237条2項の趣旨は、「適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付けがされると、当該普通地方公共団体に多大の損失が生ずるおそれや特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられるおそれがあるため、条例による場合のほかは、適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ、当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとした点にあると解される」とされています。
最高裁は「本件譲渡議決に関しては、本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから、地方自治法 237条2項の議会の議決があったということができる」と高裁の決定を廃棄し、原告の敗訴となったのです。
地方自治法237条2項の「議会の議決」には以下のように書かれています。
(1) 「法 237条2項は、条例又は議会の議決による場合でなければ、普通地方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡し、又は貸し付けてはならない旨規定しているところ、同項の趣旨は、適正な対価によらずに普通地方公共団体の財産の譲渡又は貸付け(以下「譲渡等」という。)がされると、当該普通地方公共団体に多大の損失が生ずるおそれや特定の者の利益のために財政の運営がゆがめられるおそれがあるため、条例による場合のほかは、適正な対価によらずに財産の譲渡等を行う必要性と妥当性を議会において審議させ、当該譲渡等を行うかどうかを議会の判断に委ねることとした点にあると解される。そうすると、同項の議会の議決があったというためには、財産の譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要するというべきである(最高裁平成 15年)
(3) 「同項の趣旨に鑑みると、当該譲渡等が適正な対価によるものであるとして普通地方公共団体の議会に提出された議案を可決する議決がされた場合であっても、当該譲渡等の対価に加えてそれが適正であるか否かを判定するために参照すべき価格が提示され、両者の間に大きなかい離があることを踏まえつつ当該譲渡等を行う必要性と妥当性について審議がされた上でこれを認める議決がされるなど、審議の実態に即して、当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを認める趣旨の議決がされたと評価することができるときは、同項の議会の議決があったものというべきである。」
「本件譲渡議決に関しては、本件譲渡が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上これを行うことを認める趣旨でされたものと評価することができるから、地方自治法 237条2項の議会の議決があったということができる。」
(4) 「本件譲渡の方式等についてみても、前記事実関係等に照らせば、プロポーザル方式により本件公募をし、Aらを選定した経緯等に関し、B市長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことをうかがわせる事情は存しない。したがって、本件譲渡に財務会計法規上の義務に違反する違法はなく、B市長は、本件譲渡に関して、市に対する損害賠償責任を負わない」
大竹市の議会においてどのような審議がされたのかはこの文書からはわかりません。
私は地方自治法にもとづく財産の減額譲渡に関連する3つの解説論文をネットで読みましたが、いずれも最高裁の判決を妥当とするものでした。
その背景には、人口減少や地方財政の悪化、建物の老朽化などにより地方自治体の持つ使われなくなった財産の処分が急がれてきている現在、法律の条文を形式的に当てはめるのでなく、実質的に生かしていくという流れになっているような気がします。
最高裁判例を妥当とする大前提は、議会のチェック機能が、正常に機能していることです。
しかし、地方自治体の当局と議会の力関係を見たとき、当局の力が圧倒的に強く、議会のチェック機能が非常に弱まっている中で、当局の恣意的な運営により市民の財産が不当に安く処分されたり、特定の業者への不当な利益供与がなされる恐れも増してきているのではないかと感じます。地方自治法237条2項の「議会の議決」には以下のようにも書かれています。
適正な対価によらないで譲渡等を行う必要性と妥当性があるか審議するための資料(譲渡価格、参照すべき価格、譲渡の相手方、譲渡に至るまでの経緯等)が議会に示されて、議会が価格に大きな乖離があることを踏まえた上でそれらの資料をもとに議会が当該譲渡の必要性、妥当性について審議していれば、適正な対価によらずに低廉な価格で財産が売却されたことで普通地方公共団体が多大な損害を被り、特定の者の利益を図ること防止するために議会のコントロールを要するとした法 237条2項の趣旨に適うといえるので、法 237条2項の議会の議決があったと解することができる。
これで大竹市における減額譲渡についてのシリーズは終わりにします。
参考文献として使わせていただいたサイト・地方自治法237条2項の「議会の議決」を今一度記しておきます。
https://core.ac.uk/download/pdf/230302659.pdf
次回からは伊豆市議会における旧天城湯ヶ島支所建物の減額譲渡について考察していきます。