先回紹介したCD「ふくしま・うた語り」の中の1曲の詩を紹介しましょう。
作詞は若松丈太郎さん。福島県南相馬市に住んでいる77歳の詩だ。若松さんの「神隠しされた街」は、福島第1原発事故の17年前に作られたものとは、とても思えない。
詩人の想定力は「想定外」をきちんと想定していた。
神隠しされた街
4万5千人の人びとが
たった二時間の間に消えた
サッカーゲームが終わって
競技場から立ち去ったのではない
人びとの暮らしがひとつの都市から
そっくり一度に消えたのだ
「三日分の食料を準備して下さい」と
多くの人は3日たてば この街にの街に帰れと思っていた
小さな手提げを持って 仔猫だけを抱いて
老婆も病人も バスに乗った
チェルノブイリ事故発生40時間後のことだった
1100台のバスに乗って4万5千人が消えた
鬼ごっこする子どもの歓声が、垣根ごしのあいさつが
郵便配達のベルの音が、ボルシチを煮るにおいが
家々の窓のあかりが 人びとの暮らしが
ひとつの都市プリピャチが 地図のうえから消えた
それから10日が過ぎて
チェルノブイリ原子力発電所から 半径30キ0ゾーンは
危険地帯とされた
5月6日から3日間のあいだに9万3千人、あわせて約15万人の人びとが
100キロ、150キロ先の村にちりぢりに消えた
東京電力福島原子力発電所から半径30キロゾーンといえば
双葉町 大熊町 菅田岡町 楢葉町 浪江町 広野町
川内村 都路村 葛尾村 小高町 いわき市北部
そして私の住む原町
私たちが消えるべき先はどこか
私たちはどこへ姿を消せばいいのか
日がもう暮れる 鬼の私はとほうに暮れる
みんな神隠しにあってしまったのか
うしろで子どもの声がした気がする
振り向いてもそこにはだれもいない
神隠しの街はこの地上に もっともっとふえていくだろう
私たちの神隠しは 今日すでにはじまっている
後ろで子どもの声がした気がする
ふりむいてもそこには誰もいない
広場にひとりたちつくす
2012年06月26日
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