「多元的無知」という言葉を初めて知りました。とても難しく、私がどれだけ理解できているのかあまり自信はないのですが、今の政治情勢、社会情勢を理解するうえでとても役に立ちました。
現在のような混沌とした社会では、「情報の伝えかた」と「見える化」に工夫をすることが大切なのですね。
この記事を読まれた方々はどう感じたでしょうか。
3月2日 日本経済新聞
矢ケ崎将之東北大講師
多元的無知を知る、 他者への誤認、ただす工夫 その3
もし人々が他社の考えを誤認しているのであれば、その誤りを是正すれば望ましくない行動規範から社会を解き放つことができるはずだ。その意味で政策的には人々がいだいている誤解を正す情報を適切に伝えることが重要となる。
単に正しい情報を提示すればすべてが解決するわけではない。人間は情報を正確かつ永続的に記憶し続けられるわけでなく、その効果も時間とともに薄れてしまうことが多い。。
とりわけ多元的無知の状況では、人々は目に見えない他者の考えを周囲の行動から推し量っている。例えば「育児取を多くの人が人支持しているという情報を与えられていても、実際の職場でその行動がほとんど観察されなければ、人々は「本当は支持されていたいのだろう」と疑心暗鬼になってしまう。したがって多元的無知の下での情報介入は、単なる事実上の提示以上の工夫が求められる。
対応には大きく二つの方向性が考えられる。一つは情報の伝え方であり、人々の記憶に残りやすく「意味のある情報だ」と感じさせる工夫である。
近年の経済学では、物語(ナラティブ)が人々の信念や記憶行動選択に与える役割に注目が集まっている。どのような情報が時間を超えて人々の判断に影響を与え続けるかについて、理論・実証の両面から研究が進められている
筆者らの研究では、数値情報のみを提示する場合とアニメーションなどの物語に情報を組み込む介入と比較した。結果は後者の方が人々の認識や態度に強くかつ持続的な影響を与えることが確認された。
もう一つのアプローチは、本来見えにくい他者の考えを日常的に「見える化」することである。例えば男性の育児取得や残業について、職場内に定期的に意見や考えを共有する機会を設けることだ。これは他者に対する誤認を継続的に是正する効果を持ち得る。特定の価値や考えの指示をリストバンドやバッジといった形でさりげなく表明する取り組みも、社会の中ではよく見受けられる。
こうした工夫は、行動が充分に広がっていない段階でも、目に見えない他者の考えを見える化し、是正する役割が期待される。
人々の行動を形づくるのは、個人の価値観だけではない。「周囲の人々の考え」への認識も同じくらい重要である。価値観が変化しても、他者の考えに対する認識が変わらなければ、行動は変わりにくい。社会や経済を前に進めるためには、人々の意識だけでなく、他者認識の歪みにも目を向け、是正して行く視点が不可欠である。

